皆様、毎日のお仕事や日々の事務作業、本当にお疲れ様です。
今回のテーマは、経営者である農家の皆さんにぜひ取り組んでいただきたい「資金繰り表」の作成についてです。1年先のお金の流れを「見える化」することは、経営の安定に欠かせません。
しかし、多くの農家さんとお会いする中で感じるのは、この表を作らないまま、漠然としたお金の不安を抱えて農作業に追われている方が非常に多いという現実です。
まずは、こちらのサンプルをご覧ください。 ※これは、ある稲作農家を想定した架空のモデルケースです。
表の1行目は1月から12月までの月を示し、その下には月ごとのお金の出し入れが並んでいます。主な項目を解説します。
① 期首現預金残高:その月の開始時にある現金預金の残高です。この例では、1月1日の時点で692万円の残高から始まっています。
② 売掛金入金:通帳に入金された(または現金で受け取った)総額です出荷した農産物の売上代金が、実際に通帳に入金された、あるいは現金を受け取った月の総額です。 この農家さんはお米を直接販売しているため、毎月入金があります。特に、新米の時期である秋から1月にかけて入金が多くなるのが特徴です。
その下の行には、青色申告の損益計算書と同じ経費項目が並びます。ここでの最大のポイントは、売上も経費もすべて「実際にお金が動いた月」に計上している点です。表の数字は、その月に出金される実際の金額を表しています。
- ●例えば、12月の肥料費に212万円とあります。これは春に購入した肥料代ですが、実際にJAや資材屋さんから通帳引き落としされるタイミングに合わせて、この12月に記入しているのです。
- ●また、米農家の場合は地代の支払いが毎年11月や12月に集中する傾向があります。この事例でも、11月に216万円が計上されています(黄色いセルの箇所)。
- ●一方で、雑収入として受け取る米の転作補助金も、11月と12月に集中して入金されていることが分かります。
ここが、資金繰り表の最大のポイントです。 お金が実際に出入りする月の金額をこうして当てはめていくことで、支出や収入が多い月を具体的な数字として事前に把握し、意識できるようになります。なんとなくの感覚ではなく、数字で捉えることが何より大切です。
③ 経常利益(現金ベース):計算の仕組みは損益計算書と同じですが、実際にお金が動いた月で集計しているため、月ごとの「手元のお金の動きから見た経営成績」が浮き彫りになります。農業は月によって収入に波があることがこの数字からもよく分かります。
④ 事業主貸:家計への支出や、前年度の税金・社会保険料など、経費にならないお金です。以前の連載(第10回)でも詳しく触れましたので、ぜひ一度読み返してみてください。お子さんの学費や住宅ローン、保険料の支払いなど、ご家庭の状況に合わせて月ごとに変動する部分となります。
⑤ 設備・機械の購入:金融機関との間で動くお金の記録です。融資を受けたらプラス、返済したらマイナスとなります。 事例の動きを見ると、春に短期借入金を返済し、11月には長期借入金を返済する一方で、手元の資金ショートを防ぐために新たな短期借入を行う計画を立てていることが分かります。
⑥ 借入・返済 :今年購入予定の農業機械や設備などの金額を記入します。事例では、新たな購入はないため0円としています。 ただし、表の11月に「機械更新積立金」として約45万円のマイナス(出金)があります。これは将来の買い替えに備え、お米の入金が多く資金に余裕がある月に、別口座へお金を移して「積み立てた」動きです。 多くの方はここまでされていませんが、資金に余裕がある時期に先手を打って準備する「規律」こそが経営を安定させます。私はこの積立をお勧めしています。
⑦ 月間収支:その月に、最終的にお金がいくら増減したかを表す項目です。先ほどの現金ベースの経常利益から、事業主貸、設備投資、借入・返済のすべての出入りを足し引きして計算します。
⑧ 期末残高:月末時点で手元に残っている現金と預金の残高です。その月のスタート時の残高に、⑦の月間収支を足して算出します。 事例の1月末を見ると、残高は約829万円になっています。売掛金の入金が400万円以上あったため、スタート時の693万円から136万円ほど手元資金が増えました。そして、この1月末の残高がそのまま、2月のスタート時の残高へと繰り越されます。このように毎月の残高が翌月へとつながっていくことで、12月末に手元にいくらお金が残るのかを先々まで予測できるようになります。
これが資金繰り表の全容です。 事例の農家では、春の4月・5月に短期借入の返済が集中するため、5月末の預金残高が年間で最も低くなります。また、11月は地代の支払いと長期借入の返済が重なって苦しくなるため、短期借入金で事前に資金を手当てし、翌春に返済する計画を組んでいます。
どの農家さんであっても、このように資金繰りがタイトになる月が必ずあるはずです。それを「なんとなく今月は苦しいな」という漠然とした不安で終わらせるのではなく、具体的な数字に落とし込み、表にして「見える化」しておくことが資金繰り表の最大の役目なのです。
次回は、この「資金繰り表」を実際に作成する際の具体的な手順とポイントを解説します。
以上
☆画像として貼り付けている表を、Excelでダウンロードできます。








