第18回
「決算書を正しく仕上げる」

皆さん確定申告前に決算書を仕上げるかと思いますが、その注意点をまとめようと思います。確定申告を終えた方も、これからの方も、来期以降の決算書作成にも活かせる内容ですので、ぜひ参考にしてください。

損益計算書の前提条件を理解する

まず損益計算書の前提を理解してほしいです。損益計算書は大きく売上と経費に分かれます。個人事業主であれば1月から12月、法人であれば期首から決算期までの12か月間(1年間)に発生した農産物の収益を売上として計上します。

このとき計上する経費は、あくまで1年間の売上を作るためにかかった経費であることが前提条件となります。

例えば、12月に翌年用の種苗を購入した場合、支払いは今年でも、その種苗で売上が立つのは来年です。ですから、今年の経費には入れません。

なぜ棚卸や減価償却をする必要があるのか? 当期中に計上できる基準とは何か? この前提条件がわかると判断に迷わなくなるかと思います。

(1)棚卸の意味

なぜ棚卸をするのか? 理由は、畑にまかずに残っている資材は当期に購入しても、売上に変わるのは来期になるからです。前提条件で考えると、この残っている分は棚卸をして当期の経費から引いて、来期に繰り越すことがわかるかと思います。

当期に支払ったものでも、実際に当期の売上にかかった経費を計算するためには、次のように計算します。

当期経費 = 期首在庫(棚卸)+ 当期購入 − 期末在庫

この期末在庫は、実際に12月31日に残っている材料や農産物の数量を棚卸表に記載して棚卸金額を出し、決算整理で仕訳に入れるわけです。

使っていない農薬や肥料だけでなく、パッケージ用の袋やダンボール、未使用の生産資材なども該当します。中には、未使用のボールペンやホチキスなどの文具まできちんと棚卸している農家さんを見たこともあります。

皆さんも年度末にホームセンターなどで「棚卸作業のため半日営業(もしくは休業)」の貼り紙を見たことがあるのではないでしょうか。あれは、社員が総がかりで残っている商品を数えて、棚卸を計算し、正しい損益計算書を作成しているからなのです。

皆さんも同じく、棚卸をやって売上高に応じた経費を算出しましょう。

(2)仕掛品の計算の仕方

仕掛品(しかかりひん)とは、製造途中の棚卸を指しますが、要は畑の上で生育中のため収穫されていない分のことです。これも棚卸の考え方と同じで、当期の経費から引く必要があります。

例えば、ナスだと播種した場合は6月末で定植が8月となり、そこから管理作業をおこなって、9月から収穫が開始されるわけですが、そのときは以下のように計算します。(計算例はあくまで考え方の参考にしていただき、農園の実態に合わせてください。)

作業項目 かかった費用
播種作業 ・種苗費、肥料代
・パート人数×作業日数×日当
  (例:3人×5日×8,000円=12万円)
管理作業 ・農薬代
・その他諸材料費
・パート人数×作業日数×日当
年内と年明けの出荷割合 平年(過去3カ年など)の年内と年明の出荷量の比率
例として 年内:年明=3:7
仕掛品計算 (棚卸で本年の経費から差し引く額) 作業経費合計(播種作業+管理作業)× 7/10

計算はあくまで一例ですが、農園の実態に合わせてエクセル等で根拠を残しておくこと、計算の考え方を毎年変えないで一定にすることで、正しい当年度の経費が計算できます

「我が家は毎年同じ面積でやっているから、前年や翌年で考えればいってこいで、面倒な仕掛品はやらなくてもいい」と思われる方もいるかもしれません。しかし、規模拡大や規模縮小時、不作や豊作年など出荷数量や年内と年明けの出荷比率が変化することを想定すると、なるべく正確に損益を計算したいものです。そう思われる方は、こうした仕掛品について知っておいてほしいと思います。

(3)減価償却する意味

1年間の売上に対応する経費を損益計算書に計上する。こう考えると、なぜ減価償却費があるのか理解しやすくなるかと思います。皆さんが購入したトラクターやハウスは、1年かぎりで廃棄するわけではありませんよね? 当然、将来にわたって何年も使うはずです。当年で購入した固定資産を資産計上(貸借対照表に移す)して、1年間使用した分だけ減価償却費として経費計上するわけです。まさに、1年間にあげた売上に対応した経費が減価償却費と言えるかと思います。

ただし、税務署からすれば農家の皆さんが、「自分はこのハウスを20年以上使う」とか「この機械は5年で乗り換える」とか自由に決められてはどこまでが正しい経費か判断できなくなってしまいます。そのため、耐用年数というルールを作って使う年数を統一しているわけです。

(4)経費計上の判断に迷うケース

この基本原則を理解すると、他にもいろいろなケースが腑に落ちるかと思います。

例えば、社員が住むアパートの敷金はどうでしょうか?1年間の売上にかかる経費と言えるでしょうか? 数年後に退去するときに戻ってくる意味合いがあるので、経費として計上せずに「敷金」とか「長期前払費用」などの科目で貸借対照表に計上します。

皆さんが借入をしたときに一括で支払う信用保証料はどうでしょうか?借入期間が10年だとすると、支払い時に一旦「長期前払費用」で貸借対照表に計上した後に、期末に1年分を支払利息として振り替えて経費で計上します。簿記の仕訳で説明するとこんな感じです。

借入時  長期前払費用 10万(借方) 普通預金  10万(貸方)

期末   支払利息   1万(借方) 長期前払費用 1万(貸方)

1年間の売上に対応していない経費は、一旦貸借対照表に避難する。対応する時期に経費に戻す。そう考えるとわかりやすいかと思います。

他にも、収入保険の積立分や、10年分の地代を一括で前払いした場合、年明けに完成するハウスの着手金などが該当します。「これは経費として計上していいのか?」と迷ったときは、この原則を思い出してください。

消費税率の確認

損益計算書の最後にチェックするのは、消費税率の確認です。これは特に納税に直結してきますので重要です(どれも大事ですが)。

まずは、大きく3つの消費税の区分と税率を理解しておきましょう。

消費税区分 税率
課税売上 10%、軽減8%、旧税8%、5%
課税仕入 10%、軽減8%
不課税・非課税 消費税に該当しないもの

以下の手順で、会計ソフト上の消費税率を確認していきましょう。

手順1

会計ソフトには、決算整理のタブの中で「消費税集計表」や「消費税集計一覧表」(会計ソフトにより違いがあります)というものがありますので、開いてみてください。明らかなエラーがあるとそこでわかります。例えば、課税売上(軽減8%)の金額が本来は「貸方」の欄に集計されていますが、少しの金額が「借方」に集計されている。課税売上が誤って課税仕入(または非課税売上)で計上されているなどです。集計表を見て違和感がないか確認します。

手順2

大きな金額の固定資産を購入した仕訳を確認して、税率が合っているか調べます。租税公課の元帳検索をして0%(不課税、非課税)以外の税率が誤って入力されていないか?雑収入ではどうか?など、間違えそうな税率で入力されていないか、科目の明細を調べていきます。

今後、消費税は税制改正でいろいろとルールが変わりますが、会計入力時に正しい消費税区分を意識することが大事です。そして、決算の最後に確認する習慣をつけるといいでしょう。

チェックリスト(参考)

少し難しい内容だったかもしれませんが、経費の原則を知っておき、棚卸をする意味や減価償却の理屈を理解しておくことが大切です。おおまかに、損益計算書を作成するうえでやるべきことを知っておいていただけたら幸いです。次回は、決算書の仕上げ時に、貸借対照表を整える手法について解説していきます。

最後に、損益計算書の決算書作成のチェックリストを添付しておきます。決算書作成の最終確認に、このような表を作って確認作業をされるといいかと思います。

項目 内容 チェック
OK 該当なし
在庫 期末の在庫残高は、在庫管理表の残高と一致しているか?
仕掛品 翌年度に出荷する農産物を仕掛品として計算と決算仕訳しているか?
長期前払費用 複数年またがる費用を経費として計上せずに、長期前払費用で計上しているか?
預け金・保証金・
出資金等
将来返ってくる性質の支払いを経費として計上していないか?
消費税/課税売上 軽減8%、10%、不課税の区分が合っているか?
売上値引、仕入割戻し、雑収入、交付金の区分があっているか?
消費税/課税仕入 軽減8%(食品、新聞等)、10%、不課税の区分があっているか?
旧税率5%、8%でのリース料などがある場合は、当時の契約資料を可能な範囲で確認する
任意組合の決算 地域の任意組合の清算などを雑収入に計上することを忘れていないか?

まずは12月31日の棚卸から始めてみてください。分からない部分は後回しにしても構いません。大切なのは、決算書を「作業」で終わらせず、経営を振り返る「きっかけ」にすることです。

皆さんの経営が、数字を通してより強くなっていくことを応援しています。

以上