今回は「理念の作り方」について解説します。
うまくいっている経営者の共通点は、言葉の端々から、日頃大事にしている信念が相手に伝わってくることです。
いつも一緒にいる家族やスタッフ、取引先や行政の方などが、その理念に共感して協力し、応援する力が働いていきます。農業は経営者個人の力だけでは成り立たず、チームの協力が必要不可欠だからです。
がむしゃらに頑張って結果がついてきた時代とは、今は状況が異なります。だからこそ、経営理念を改めて自分の中で整理しておくことは、今後の皆さんの経営に必ず活きると筆者は確信しています。
では、具体的な理念の作成方法について解説していきます。
理念作成シートを活用する
下図は、筆者が作成した「理念作成シート」です。
このシートへの記入を通して自分の内面と向き合い、理念を明確にしていきます。
理念作成シート(過去の出来事、価値観、強みなどを書き出すシート)
理念を作るには、ネットや本から言葉を借りてくるよりも、自分の中から絞り出すことが何より大切です。
自分の過去の経験を振り返りながら、「自分がなぜ今の職業を選択したのか?」を考えてみてください。必ず、なにかきっかけがあったはずです。そして、そのきっかけは、子供のころから自分が影響を受けた出来事や、自分の価値観が深く関わっているはずです。
過去を振り返りながら、自分の価値観やキーワードを見つけ、自分が誰の役に立ちたいか、自分だけの強みとはなにかを探り、最後に理念としてまとめていきます。
過去の棚卸しをする
まず、子供のころや学生のころに印象に残った出来事を振り返ってみてください。
- ●家業の農業をどう感じていたか?
- ●子供のころに夢中になったものは何か?
- ●思春期に親や友達と喧嘩をした出来事
など、いろいろあるかと思います。そのころの自分を、今の自分が上から客観的に見てみるイメージを持ってください。
そして、「その印象的な出来事があったときに、当時の自分はどんな思いだったのか? なぜ、そう思ったのか?」と問いかけてみてください。自分で自分に質問をして、自分の価値観を深堀りしてみるのです。
実際にやってみると、過去に印象に残っている出来事は、つらい時が多いかもしれません。そこを深堀りすることは、ふたをしていた自分の本当の気持ちに気が付く反面、つらい記憶がよみがえることもありますので、無理はしないでください。
また、楽しかった思い出や、「なぜ自分は夢中になったのか?」といった明るい話題も意識して思い出し、深堀りしてみてください。
同じように、社会人になってから、今の仕事を始めてからの出来事も振り返ってみてほしいと思います。
自分が大事にしてきたものを再確認する
過去の棚卸しをする中で、子供のころから今に至るまでの中で共通する価値観やキーワードがないか、探してみてください。
親から受け継いだ作物と向き合う想い、地域とのかかわり、自然いっぱいのなかで遊んだ思い出、一度地域を出て気がついた家業への想い……。
これら自分にまつわるキーワードを書き出すことで、日頃意識することなく心の奥にしまいこんでいる価値観や信念を、あぶりだしてほしいのです。
そして、自分の価値観から「仕事を通して誰の役にたっていたか?」を考えます。
就農から今までの間で、地域で農業をしている中で、仕事を通して「誰の役にたっていたか?」「その時どんな感謝をされて、うれしかったか?」書き出してみましょう。
誰かの役にたった時に感じたやりがいは、「今後自分が誰の役にたちたいか?」につながります。
自分の作物を食べて喜んでくれた消費者の顔、毎日仕事をしてくれるスタッフにとって地域で働ける職場があること、地権者から農地を守ること。自分の仕事を通して誰の役に立ちたいか、まとめていきましょう。
自分だけの強みを探す
次に、自分だけの(農園の)強みは何か、考えてみましょう。
「自分だけの強みなんてない」と思うかもしれません。しかし、強みとは「無意識にできていること」であるため、自分では気づきにくく、当たり前すぎて誰からも指摘されないものなのです。
地域で一目置かれる反収を達成した、作物の病気が発生すると他の農家から相談される、家族の団結力がある、作物の観察力や手間を惜しまない……。
「誰でもできる」と思うようなことでも、一つのことを粘り強く続けてきた中には、意外と他人には真似できない、その農園ならではの強みが隠されているものです。
どうしても自分の強みが浮かばないときは、どんどんハードルを下げていいのです。「当たり前にできる」を継続していることも、立派な強みになります。
また、家族や友人に「自分の強みはなにか?」と聞いてみるのもいいでしょう。いつも身近にいる人が、自分が気がついていない強みを見ているものです。
筆者は経営コンサルタントとして独立した当初、顧客に戦略や高度なノウハウなど背伸びをした内容を提供しようとして無理をしていた時期がありました。しかしある日、家内から「あなたの強みは、農家によりそって話を聞いてあげることでないの?」と言われてハッとしたことがあります。自分の弱みを克服することばかり気にかけていましたが、第三者からみた自分の強みを聞いたときに、自分の仕事の方向性が決まりました。
「行動指針」と「一言」に落とし込む
それでは、ここまで書いてきた内容を振り返って、最後にまとめていきましょう。
1. 行動指針を作る
自分の価値観や強みを大事にしていくために、日頃から気をつけておくべき行動を書きましょう。
農業は、繁忙期になると忙しくなり、余裕がなくなり理念を作っても思い出す暇もなくなるでしょう。そんな時に、自分の農場で作成した行動指針を思い出せるようにして、忙しい時だからこそ、農場みんなで守るべき行動指針を作成しておくといいです。
- ●困っている人を助ける
- ●お互い声をかけあう
- ●人に任せる
- ●投資は事前に相談する
- ●新しい挑戦はみんなで試行錯誤してから進める
2. 一言でまとめる
そして、最後に「なぜ農業をするのか? 一言でいうと?」ここを自分に問いて、まとめていきましょう。
一言でまとめるというのは、余計な言葉をそぎ落としていく結構難しい作業です。そして、最後に残った言葉こそが、一番大事な「農業をする理由」になります。
このように、過去から家の農園の歴史を振り返り向き合いながら作ることで、借り物ではない「自分の言葉」で理念をまとめていきましょう。きっと、自分たちの指針になるはずです。
これからの農業は、農家数が減少していく時代です。それに伴い、規模拡大や法人化、雇用、スマート農業などいろいろな選択肢が皆さんの前に現れる中で、迷うことも多くなるはずです。
迷ったときは経営理念に立ち返って判断をしてほしい。そのために理念を作りましょう。
最後に筆者の理念の作成例を添付します。参考にしてください。








