第14回
「ビジョンの作り方」

前回は、経営がうまくいっている方の「6つの共通点(力)」について解説しました。

今回は、その6つの力のうち、一つ目に挙げた「未来を描き、語る力(ビジョン)」について、具体的にどのように作成していくか、筆者が研修等で実際に行っているワークをご紹介します。

まずは「夢を50個書く」ことから

筆者は、「ビジョンが大切だとは分かっているが、どう作ればいいか分からない」という経営者の方によくお会いします。

そこで私は研修などで、「自分の夢を50個書く」というシートを配り、あえて制限時間を設けて無理やりにでも50個書いてもらうワークをおこないます。

皆様もぜひ、A4の紙を一枚用意して、時間を計って(15分程度)書き出してみてください。

どんな小さなことでも構いません。

  • ●ほしいもの(軽トラック、最新のスマホ、時計、服、家、ハウスなど)
  • ●やりたいこと(趣味、新しい栽培品目、法人化、人を雇うなど)
  • ●いきたいところ(毎年家族旅行にいく、海外にいく、ディズニーランドにいく)
  • ●会いたい人(自分の「推し」、あこがれの人など)
  • ●なりたい姿(地域で一番の農家、〇〇の品目で日本一、かっこいい父親など)

実現できそうにないことでも構いません。「こんなことを書いたら周囲に馬鹿にされる、笑われる」といった心のブレーキ(リミッター)をはずして書いてもらうことが重要です。もう出ないと思っても、「子どものころに思っていた夢はなかったか?」と、乾いたぞうきんを絞るように自分の心を絞り出してください。

なぜ50個も書くのか?

このワークは、実際に50個書くことが目的ではなく、50個書きましょうと無理をさせることで、

  • ●世間体や実現可能性を気にするあまり、普段は蓋をしている「ほんとうにやりたいこと」を見つける
  • ●書くことで、自分の夢や「達成したいこと」を自己暗示し、実現への意欲を高める

ことが本来の目的にあります。

前回のコラムでも書いた通り、自分の夢を書き出すことで、言葉が前向きになっていきます。

そして、ぜひご家族の前で自分の考えていることを発表しましょう。

意外と自分の発した夢ややりたいことは、家族は笑ったりせず応援してくれるものです。

自分が、家族の夢をきいたときに、「そうか、こんな思いがあったのか。応援したいな」と思うように、自分自身も周囲から応援される存在であることに気が付いてほしいと思います。

このワークは、社員やパートさんとやってもとても効果的です。

「ビジョンコラージュ」で夢を視覚化する

この「夢を50個書く」というワークは、閉じ込めていた自分のやりたいことを自分の言葉で書き出すことで、自分自身の潜在意識に明確に植え付けることが目的です。さらに自分に明確に植え付けるために、「ビジョンコラージュ」もおすすめです。

夢の視覚化01
夢の視覚化02

写真は、筆者の娘のビジョンコラージュです(だいぶ昔のものですが)。我が家では、毎年1月2日あたりに、家族で将来の夢や今年実現したいことを、PCで探した画像を出力して切り貼りし作成(※)、家族内で発表会をします。そして額に入れて、廊下の壁など「常に見える場所」にはりつけておきます。

※PC操作が苦手なら、古い雑誌や旅行パンフレットを切り抜いて画用紙に貼る、といったアナログな方法でも全く問題ありません。大切なのは「見える化」することです。

本人も、このコラージュ(英語で「貼り合わせる」という意味です)を作ることで、夢をより鮮明に意識にすり込めますし、これを見た家族も子供の夢を応援したいと思うようになります。

ビジョンを「具体的なロードマップ」に落とし込む

さて、夢を書き出し、コラージュで見える化しただけでは、「夢見る夢子ちゃん」で終わってしまいます。経営者は、夢(ビジョン)を実現する責任があります。

そのために、書いたビジョンを「具体的なロードマップ」に落とし込みます。

【例1:家族で海外旅行にいく】

  • 1年後(短期目標): 100万円貯金する
  • 3年後(中期目標): 家族会議で行き先を決める
  • 5年後(長期目標): 〇〇(国名)にいく

【例2:3年後に売上を3000万にする(現状が仮に1500万なら、1500万アップ)】

  • 1年後(短期目標): 売上2000万(+500万)
  • 3年後(中期目標): 売上3000万(+1000万)
  • 5年後(長期目標): 売上3500万(+500万)

【例3:3年後に面積を○○ha増やす。(例:反収を○○kgに上げる)】

  • 1年後(短期目標): 面積〇ha増(反収〇kg)
  • 3年後(中期目標): 面積〇ha増(反収〇kg)
  • 5年後(長期目標): 面積〇ha増(反収〇kg)

【例4:かっこいい父親になる】

  • 1年後(短期目標): 家族の話を聞く時間を毎日30分とる
  • 3年後(中期目標): 毎月1回は家族サービスをする
  • 5年後(長期目標): 家族から尊敬される

上記は例ですが、ビジョンに「いつまでに」「何を」といった具体的な数字を入れて表現すると、ビジョン達成までのロードマップが明確になります。数値を入れて目標が明確になると行動につながりやすくなります。

第1回のコラムで「レコーディング・ダイエット」の話をしました。記録することで意識が変わり、行動が変わるという話です。ビジョンも同じです。書き出して、貼り出して、常に見える化することで意識が変わります。

ただ念じているだけではなく、ビジョンを持ち続けながら、そこに向かう「行動」を継続することこそが、ビジョンを叶える唯一の道だと思います。

そして、この「夢を具体的なロードマップに落とし込む」作業こそ、まさに経営におけるPDCAサイクルの「P(Plan=計画)」そのものです。

そのために、書いたビジョンをより具体的にすることをやりましょう。

ただし、いきなり壮大な計画を立てる必要はありません。まずは、ご自身の『夢』を書き出すことから始めてみてください。

この「書き出す」という小さな一歩が、未来を大きく変えるきっかけとなります。