第17回
「確定申告前にすべき「数字の共有」」

確定申告を早く終わらせる本当の意味

多くの方が、年明けから1年分たまった書類を前に確定申告に向けた準備を始め、申告期限ぎりぎりまで作業に追われてようやく申告を終える。そして、出来上がった決算書を振り返る暇もなく、次の農繁期に突入していく姿をよく目にします。

しかし、確定申告という行事は、申告を終えた後に決算書を家族で振り返り、情報を共有して本年に向けて意識を新たにする時間こそが、とても大切なのです。この大切な時間を、申告作業だけのために使い切ってしまうのは、とてももったいないと筆者は感じております。

理想は、12月末から1月上旬には決算書が大体出来上がっていて、1月~2月には、その決算書をもとに前年を振り返り、本年のことを家族や社員と共有する「未来のための時間」に活用してほしいのです。

何を話し合うか

今までの連載で、「決算書が終わってからやってほしいこと」として解説してきましたが、ここでも簡潔に整理しましょう。話し合いの際の「チェックリスト」として活用してください。

1. 損益計算書を2か年並べる(エクセルに入力する)

  • ●2か年を比較して異常値を調べる。(例:肥料費が増加したなど)
  • ●会計ソフト→元帳→科目検索で原因を探る。
  • ●数字を見ながら「現場で何があったか?」を家族内で答え合わせする。

2. 売上を2か年比較する

  • ●売上金額だけでなく、面積、反収(kg/10a)、販売数量(kg)、単価(円/kg)も品目ごとに2か年比較する。
  • ●同じように「現場で何があったか?」を家族で話し合う。

3. 現預金の期首と期末の差額を確認する

  • 前年末の現預金の額と1年間の差額を確認する。(1年間で手元のお金がどれだけ増減したか?)

4. CF(キャッシュフロー)計算書を作る

  • ●2か年の貸借対照表から、営業CF、投資CF、財務CFを算出し、1年間のお金の流れを確認する。

5. 予測損益計画を立てる

  • ●前年の損益実績を参考にして、本年の予測損益計画を立てる。
  • ●前年の反省をもとに、反収(kg/10a)を上げる取り組みや、修繕費などの経費削減目標を家族で共有する。

6. 予測CF計画を立てる

  • ●借入金の返済額や、今年の投資予定(修繕や更新が必要な設備機械など)を仮で入れておく。家計費も前年を参考に計画を立てる。
  • ●予測損益をもとに「この1年お金が回るか? どのくらい増えるか?」を数字でイメージできるようにする。

出来上がった決算書とパソコンや記帳の資料をリビングの机に置いて、さあ、始めましょう☝️

2か年の損益を比較して、前年の経営で何があったか? 数字の異常値は何が原因か? 家族で話し合いましょう。「分析する」といった難しいことではなく、数字を見ながら、「あれ? 肥料代こんなにかかったっけ?」「農薬代は、病気が発生して散布回数が増えたものなあ」というように、気になることを話すだけでいいのです。

筆者の経験上、前年の経費で増加したものや、売上の分析で反収(kg/10a)が減少したことなどを家族内で共有するだけで、深く対策まで議論しなくても、本年にメンバーそれぞれが意識して行動するようになります。

ここで一番大切なのは、誰かを「責任追及」しないことです。誰かのせいにすると、家族内での共有が継続できなくなりますから、「ただ数字を共有するだけ」で十分なのです。

上記のリストの下二つ、「予測損益」や「予測CF計画」は作成するのが大変かもしれませんから、できる範囲で構いません(詳細は過去連載の第3回から第5回までを参照ください)。

過去を振り返り、「本年から1年先の将来をどうしていくか?」

この課題について数字を見ながら話し合えると、これからの農繁期に向けて家族や社員が一致団結しやすくなります。

早く確定申告を終えるためのヒント

決算が締まったばかりの数字がまだほやほやのうちに、家族で数字を振り返る。こうした大切な時間を確保するためには、早めに決算書を仕上げることです。

しかし、ここが皆さんご苦労されているようです。分かっていても1年分ため込んでしまう。農家さんは、日々のやるべきことに追われています。会計を担当する奥さんは農作業のほかに家事育児も毎日たくさんのタスクが山積みです。会計入力の厄介な点は、重要なことだと分かっていても、「日々やらなくても締め切りはまだ先だ」と油断してしまいがちな点です。

「特効薬」というわけではありませんが、決算書を早く仕上げるためのヒントをお伝えします。

1. 月に2日は現場を離れて、勤務時間中に会計入力をやる

どうしても、会計入力は現場作業が優先されて、夜にやるものと考えがちです。

「会計入力は早く終わらせる」ことを家族内で共通認識にして、勤務時間中に現場が忙しくても堂々とやる雰囲気を作りましょう。これは、実践した農家さんに聞くと非常に効果がありました。

2. 隙間(すきま)時間にやる

「会計入力は難しいから、集中してまとまった時間にやる」と考えがちです。それで結局その時間がとれずに後回しになる悪循環に陥ります。

「数枚のレシートだけでも入力して終わりにしよう」

これくらいの気持ちで、隙間時間にやることが大事です。会計入力の心理的なハードルを下げて、取り組みやすくするのです。そして、いざ入力し始めて、「あともう少しやろう」となればこちらのものです。自転車と同じで、こぎ始めは大変でも走り出すと楽になります。進められるだけ進めておきましょう。

3. 完璧にやろうとしない

完璧主義になるとなかなか進まなくなります。入力につまずくものは、「後回しファイル」に入れておきます。付箋に「根拠資料なし」「入力方法不明」などと書いて貼っておきます。通帳には「仮払金」や「仮受金」といった仮の勘定科目で入力しておくと、とりあえず通帳の残高は合うのですっきりします。

会計入力は、分からないところは後に回しても、とにかく伝票入力を進めることが大事です。

4. 第三者の力を借りる

税理士さんに月次顧問を依頼している方は、1ヶ月ごと、2ヶ月ごとでも、あるいは半年に1回でもお会いしてチェックをしてもらうことが大事です。ため込んで1年に1回しか会わない方も多いように思いますが、こちらから期日を決めて「途中期間まで入力チェックをお願いします」と言えば、税理士さんも快く応じてくれます。なぜなら税理士さんも年度末に仕事がたまるのは困るからです。

筆者は以前、農家さんを集めて定期的に「会計入力をやる図書館」を開催していたことがありました。会場に来ていただくか、WEBミーティングに集まって、それぞれが黙々と会計入力をやる会です。周囲が頑張っていると自分もやる気が起きる、図書館の自習室のイメージです。農家の友達と一緒に夏ごろに集まって「会計入力をやる会」を開催してみるのもいいでしょう。

次回は、いよいよ「決算書の仕上げ方」について解説していきたいと思います。

以上