第13回
「成功者に共通する「6つの力」」

前回は、経営が悪化する典型的なパターンとして、あえて厳しい視点から「4つの落とし穴」について解説しました。耳の痛い話に感じられた方もいらっしゃったかもしれません。そこで今回は、視点を変えて、私がこれまでお会いしてきた中で「経営がうまくいっている」と感じる方々に共通する特徴、すなわち成功の秘訣についてお話しします。

1. 未来を描き、語る力(ビジョン)

まず一つ目は、リーダーが明確な「ビジョン」を持っている点です。優れた経営者の方々は、常に未来志向の言葉でご自身の事業を語ります。「将来、栽培面積を〇ヘクタールまで拡大したい」「最新設備のハウスを建て、生産性を上げる」「〇〇人の雇用を創出し、地域に貢献したい」「この新しい品目に挑戦し、新たな市場を開拓する」。こうした未来への希望を生き生きと語る姿は、聞く人の心を動かし、「この人を応援したい」と思わせる力があります。

一方で、ビジョンを描けずにいると、会話は現状への不満や愚痴が多くなりがちです。「行政が悪い」「農協や市場が理解してくれない」。もちろん、誰しも不満を口にしたくなる時はあります。しかし、それが常態化すると、周囲は未来への希望を見出せず、次第に心が離れていってしまうでしょう。

ビジョンを持つ経営者は、未来から逆算して今を考えているため、その思考が自然と言葉に表れます。そして、その前向きなエネルギーが、共に働くご家族や従業員、パートの方々へと伝播し、チーム全体を活性化させていくのです。

2. 人を惹きつける軸(理念)

次に、リーダーが経営の軸となる「理念」を持っている点です。これもビジョンと同様、お話をお伺いしていると、言葉の端々から、その方ならではの確固たる理念が伝わってきます。「最高の品質を届けるため、一切の妥協をしない」「どんな困難な状況でも、やるべき作業をやり抜く粘り強さ」「共に働く仲間を大切にする」「事業のためにも、損得関係なく積極的に引き受ける」。

こうした一貫した姿勢や価値観は、私が第三者として感じ取るのですから、日々共に過ごす従業員や地域の方々は、より強く感じ取っているはずです。農業は一人では成り立ちません。周囲の信頼と協力を引き寄せ、強い組織の礎となるのが、この経営理念なのです。

3. 着実に前進する力(計画性)

前回、補助金などを活用した「一足飛びの事業拡大」が、かえって経営を悪化させるリスクについてお話ししました。

成功している経営者は、このリスクを熟知しています。彼らは、無理な拡大路線を避け、チームの成長に合わせて一歩ずつ着実に事業を発展させています。規模拡大、6次産業化、新規事業への挑戦。いずれにおいても、経営者が一方的に無理を強いるのではなく、チームで課題を一つひとつ乗り越えながら、組織全体の成長と共に事業を前進させる計画性を持っています。

4. 信頼を築く力(約束を守る)

私はコンサルタントとして、経営者の方々と「次回までにこれをやりましょう」という宿題を交わすことがよくあります。残念ながら、「忙しい」ことを理由に実行していただけないケースも少なくありません。

その一方で、成功している経営者は、どんなに小さな約束でも必ず守ります。私のような外部の人間との約束を守る方は、きっとご家族や従業員との約束も大切にされているのだろう、と想像します。人は誰しも、相手によって対応を変えてしまう側面を持っています。しかし、相手の立場に関わらず、交わした約束を誠実に守る姿勢は、必ず周囲からの信頼につながります。小さな約束の積み重ねが、やがて大きな信頼、すなわち「信頼資本」を築くことを理解しているのです。

5. 強みを磨き続ける力(継続性)

経営には不安がつきものです。特に近年は、メディアで先進的な取り組みが紹介される機会も増え、「何か新しいことをしなければ」と焦りを感じる方も多いでしょう。その結果、様々なことに手を出し、虻蜂取らずに終わってしまうケースも散見されます。

成功している経営者は、新しい挑戦を恐れないと同時に、「やめる勇気」を持っています。自社の状況を冷静に分析し、うまくいかないと判断した事業からは潔く撤退する。そして、自社の強みに資源を集中させます。「この部門の収量と品質は、誰にも負けない」「規模は小さくとも、顧客との直接的な関係構築に特化する」「家族的で明るい職場環境こそが、我が社の強みだ」。このように自社の核となる強みを定め、それを磨き続ける「選択と集中」を実践しているのです。

6. 人を育て、活かす力(任せる力)

最後に挙げるのが、「人に任せる力」です。成功している農園は、例外なく後継者や右腕となる人材が育っています。お話を伺うと、代表がまだ若く、体力も気力も十分なうちから、息子さんや従業員に大きな権限を委譲しているケースが多いことに気づかされます。

「一度の失敗が一年間の収入を左右する農業で、経験の浅い後継者に任せることに怖さはありませんでしたか?」という私の問いに、ある経営者はこう答えました。「任せないと、人は育たないからね。自分がいつまでも口を出していたら、次の世代は育たないよ」。これは、言うは易く行うは難し、です。失敗のリスクを受け入れ、相手の成長を信じて待つ。この「任せる」という行為は、後継者や部下を育てるための、最も効果的な投資と言えるでしょう。

そして、権限を譲った後も、ご自身は地域の役目を引き受けたり、若手の指導役となったりと、新たな役割を見つけて生き生きと活躍されている点も、見逃せない共通点です。

私が多くの経営者と出会う中で見出した、これら6つの共通点。読者の皆様の中には、「自分にもできている部分がある」と自信を持たれた方や、改めてご自身の経営を振り返るきっかけになった方もいらっしゃるのではないでしょうか。

これらは、単なる理想論ではありません。成功している経営者が日々実践している、極めて実践的な「力」です。明日からの行動のヒントとして、一つでも実践していただければ幸いです。